労働力不足や農地集積による経営規模の拡大が進行するなか、稲作における一層の省力化、低コスト化を図るため、東北地域を中心に水稲直播栽培の導入が広がってきました。種もみを水田に直接まく直播栽培は、従来の移植栽培と異なり、ハウスで苗を育てて移植 (田植え) する必要がないため、それらにかかる労働時間や生産コストを削減できます。また、移植栽培と組み合わせることで作業ピークの分散が可能になり、作付面積を拡大しやすくなります。
東北農業研究センターが開発した水稲直播栽培技術
乾田直播栽培 (プラウ耕鎮圧体系)
低コスト稲作の実現には、作業の高速化や機械の汎用化、収量の確保が欠かせません。それらの課題解決をめざして開発された乾田栽培技術が「プラウ耕鎮圧体系」です。この技術の大きな特徴は、大型の畑作用機械を汎用利用し高速作業を行うため労働時間や機械費を大幅に削減できること、ケンブリッジローラなどを使った鎮圧により苗立ちが安定化し漏水も抑えられること、移植栽培に不可欠な耕盤層が水田に不要になり排水性が改善されるため麦や大豆などの輪作に適することにあります。
プラウ耕鎮圧体系では、まずほ場をプラウなどにより耕起してほ場を乾かします。さらにケンブリッジローラなどで鎮圧 (播種前鎮圧) し整地した播種床に、麦用の播種機 (グレーンドリル) などで種もみを播種し、その後再びローラで鎮圧 (播種後鎮圧) します。この鎮圧をしっかり行うことで、乾田直播栽培の大きな課題となっていた苗立ちの安定化や漏水の抑制を達成し、除草効果や施肥効率も高めることができるのです。
この技術を導入した水稲-小麦-大豆の2年3作体系の現地試験 (2013~2017年) では、東北平均に比べ水稲57%、小麦46%、大豆72%のコスト低減効果を実証しています。
☘ 技術の詳細はこちらへ

無コーティング種子代かき同時浅層土中播種栽培
一般的な湛水直播栽培技術では、播種直後の鳥害や倒伏対策、発芽促進のため種もみにカルパーなどをコーティングする必要があります。直播栽培によって育苗や移植の作業からは解放されますが、コーティングには新たに経費や労力がかかるうえ、不適切なコーティングによって種子が損傷しないようコーティング技術も必要になります。こうした課題を解決し生産者が湛水直播に取り組みやすくなるよう開発された技術が、「無コーティング種子代かき同時浅層土中播種栽培」です。
無コーティング種子代かき同時浅層土中播種栽培では、コーティングをしない種もみを、代かきと同時に深さ5mm以内の浅い土の中に播種します。浅く土中に播種することで鳥害や苗立ち不良が軽減されコーティングも不要になることや、2回目の代かき時に播種するため播種前の代かきが1回で済むこと、さらに、手持ちのトラクタに装着可能な専用播種機を用いれば、種もみを補給せずに一人で約1ha分の播種作業ができることから、省力化や資材費の削減が期待できます。また、根出し種子や倒伏しにくい多収品種を用いることで、収量性も向上します。
☘ 技術の詳細はこちらへ

2022年現在、乾田直播栽培(プラウ耕鎮圧体系)は北海道、東北(宮城県が主)地域を中心に約4,448ha、無コーティング種子代かき同時浅層土中播種栽培は東北地域(秋田県、岩手県が主)を中心に184ha普及しています。
耐倒伏性と収量性に優れた水稲育成品種

飯米用・餅用の品種
- しふくのみのり (育成年 : 2019年)
東北地域中部では"中生"熟期の粳種。高温耐性に優れ、いもち病に強く縞葉枯病に抵抗性です。耐倒伏性は"かなり強"です。栽培適地は東北中部以南(目安として「ひとめぼれ」の栽培地域)です。2025年現在、秋田県、三重県、滋賀県で産地品種銘柄に設定されています。 - ゆみあずさ (育成年 : 2017年)
東北地域中部では"やや早"熟期の粳種。高温耐性はやや弱いですが、いもち病にはかなり強いです。栽培適地は東北中部以南(目安として「あきたこまち」の栽培地域)です。2025年現在、岩手県、宮城県、秋田県で産地品種銘柄に設定されています。 - ちほみのり (育成年 : 2014年)
東北地域中部では"かなり早"熟期の粳種。葉いもちには"強"、穂いもちには"やや強"です。栽培適地は東北地域以南です。2025年現在、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県、新潟県、兵庫県で産地品種銘柄に設定されています。 - ときめきもち (育成年 : 2014年)
東北地域中部では"中生"熟期に属し、いもち病に強い糯種。餅の「のび」がよく、時間をおいても硬くなりにくいです。栽培適地は東北中部以南です。2025年現在、秋田県で産地品種銘柄に設定されています。
飼料用の品種
- たわわっこ (育成年 : 2018年)
寒冷地中部では"かなり早"熟期の粳種。岩手県と共同育成した飼料用米品種です。葉いもちには"かなり強"、穂いもちには"強"です。岩手県の奨励品種(非主食用)です。 - べこげんき (育成年 : 2014年)
東北地域中部では"かなり早"熟期に属する粳種で、稲発酵粗飼料(ホールクロップサイレージ)に向きます。食用品種である「あきたこまち」の収穫前に黄熟期収穫ができます。
☘ 東北農業研究センターで育成したこのほかの飼料用イネ品種についてはこちらへ