労働力不足や農地集積による経営規模の拡大が進行するなか、稲作における一層の省力化、低コスト化を図るため、東北地域を中心に水稲直播栽培の導入が広がってきました。種もみを水田に直接まく直播栽培は、従来の移植栽培と異なり、ハウスで苗を育てて移植 (田植え) する必要がないため、それらにかかる労働時間や生産コストを削減できます。また、移植栽培と組み合わせることで作業ピークの分散が可能になり、作付面積を拡大しやすくなります。
直播栽培には、乾いたほ場に播種する「乾田直播栽培」と、浅く水を張って代かきをしたほ場に播種する「湛水直播栽培」があります。
さらに乾田直播栽培には、大型の畑作用機械を使い乾いた状態のほ場を耕起・整地して播種する方法 (プラウ耕鎮圧体系) と、秋代かきなどを行って整地しておき専用の播種機で乾いた状態のほ場に溝を切り播種する方法 (V溝直播) があります。湛水直播栽培には、カルパー(酸素発生剤)、鉄粉、べんがらモリブデンのいずれかをコーティングした種もみを使う方法とコーティングしない種もみを使う方法 (無コーティング) があり、いずれも代かき後の湛水状態で播種します。コーティングした種もみを散播する場合は、無人航空機や乗用播種機、背負式動噴などを使います。

育苗や移植作業が不要になる直播栽培は省力化・低コスト化に優れた技術ですが、一方で雑草対策のほか、乾田直播栽培ではほ場の漏水や苗立ちの不安定性、湛水直播栽培では鳥害や九州地域を中心にスクミリンゴガイの食害など、対策を要する課題があります。直播栽培で移植栽培並みの収量を安定的に確保するためには、倒伏しにくい品種を導入することも不可欠です。また、乾田直播栽培の場合、播種時にほ場が乾いていなくてはならないため、春先に土壌が乾きにくい地域への導入には適しません。直播栽培に取り組む際は、経営規模、所有機械、ほ場の大きさだけでなく、地域の気象や土壌などの条件もふまえて技術を選択する必要があります。
東北農業研究センターが開発した水稲直播栽培技術
乾田直播栽培 (プラウ耕鎮圧体系)
低コスト稲作の実現には、作業の高速化や機械の汎用化、収量の確保が欠かせません。それらの課題解決をめざして開発された乾田栽培技術が「プラウ耕鎮圧体系」です。この技術の大きな特徴は、大型の畑作用機械を汎用利用し高速作業を行うため労働時間や機械費を大幅に削減できること、ケンブリッジローラなどを使った鎮圧により苗立ちが安定化し漏水も抑えられること、移植栽培に不可欠な耕盤層が水田に不要になり排水性が改善されるため麦や大豆などの輪作に適することにあります。
プラウ耕鎮圧体系では、まずほ場をプラウなどにより耕起してほ場を乾かします。さらにケンブリッジローラなどで鎮圧 (播種前鎮圧) し整地した播種床に、麦用の播種機 (グレーンドリル) などで種もみを播種し、その後再びローラで鎮圧 (播種後鎮圧) します。この鎮圧をしっかり行うことで、乾田直播栽培の大きな課題となっていた苗立ちの安定化や漏水の抑制を達成し、除草効果や施肥効率も高めることができるのです。
この技術を導入した水稲-小麦-大豆の2年3作体系の現地試験 (2013~2017年) では、東北平均に比べ水稲57%、小麦46%、大豆72%のコスト低減効果を実証しています。
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無コーティング種子代かき同時浅層土中播種栽培
一般的な湛水直播栽培技術では、播種直後の鳥害や倒伏対策、発芽促進のため種もみにカルパーなどをコーティングする必要があります。直播栽培によって育苗や移植の作業からは解放されますが、コーティングには新たに経費や労力がかかるうえ、不適切なコーティングによって種子が損傷しないようコーティング技術も必要になります。こうした課題を解決し生産者が湛水直播に取り組みやすくなるよう開発された技術が、「無コーティング種子代かき同時浅層土中播種栽培」です。
無コーティング種子代かき同時浅層土中播種栽培では、コーティングをしない種もみを、代かきと同時に深さ5mm以内の浅い土の中に播種します。浅く土中に播種することで鳥害や苗立ち不良が軽減されコーティングも不要になることや、2回目の代かき時に播種するため播種前の代かきが1回で済むこと、さらに、手持ちのトラクタに装着可能な専用播種機を用いれば、種もみを補給せずに一人で約1ha分の播種作業ができることから、省力化や資材費の削減が期待できます。また、根出し種子や倒伏しにくい多収品種を用いることで、収量性も向上します。
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2022年現在、乾田直播栽培(プラウ耕鎮圧体系)は北海道、東北(宮城県が主)地域を中心に約4,448ha、無コーティング種子代かき同時浅層土中播種栽培は東北地域(秋田県、岩手県が主)を中心に184ha普及しています。