社会にインパクトのあった研究成果

農林水産研究成果10大トピックス 2015年選出

中山間地域対応型栽培管理ビークル (中山間地水田作向けの多用途小型作業車)を開発
-耕うんから管理作業までを1台でカバー、投資コストの低減に期待-

中山間地の水田においては、小型乗用田植機や中山間地対応自脱型コンバイン(緊プロ開発機)などが一定の普及をみているものの、小区画・非定型ほ場では乗用体系化が進んでいないのが現状です。また、農業従事者の高齢化が進み、後継者不足も課題となっています。

農研機構生研センターは、三菱農機株式会社と共同で、小型で旋回しやすいため小区画ほ場でも作業し易く、また、後輪を上げ下げできるため水田から出る時や傾斜のきつい農道を走行時の安全性が向上する中山間地対応型栽培管理ビークルを開発しました。作業機を交換することで耕うん、田植えなど様々な農作業が可能であり、中山間地の小区画・非定型水田における作業の省力化及び新規就農時の初期投資の抑制つながることが期待されます。

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全てのナシ品種を結実させる花粉を作るニホンナシ系統を作出
-人工受粉が要らない品種・全てのナシ品種に使える受粉専用品種の育成に期待-

ニホンナシは、自家不和合性という性質を持っていることから、栽培で人工受粉作業を行う労力がかかるため、自分自身の花粉でも結実する自家和合性品種が求められています。

農研機構 果樹研究所は、自分の花粉で受精し人工授精が不要な日本梨の新系統を育成しました。農業生物資源研究所放射線育種場に植えていた「幸水」の花粉を果樹研究所の「幸水」と交配して育成されました。一般に梨は自分と同じ品種の花粉では実ができませんが、この新系統は全ての梨を結実させる花粉を作ることができます。これをもとに、人工授粉が不要な優良品種や授粉用の花粉を生産する専用品種の育成が期待されます。

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ナスの受粉作業を省くことができる新しい遺伝子を発見
-ナス科野菜の省力・安定生産に貢献が期待-

低温期におけるナスの促成栽培では、果実の確実な着生と肥大を促すため、マルハナバチ類等を用いる受粉促進や着果促進剤の施が広く行われています。しかし、マルハナバチ類を利用する場合は一定の導入経費を要すること、マルハナバチ類のう外来種については利用に法令上の制限があることなどの問題点があります。一方、着果促進剤の施用は全労働時間の約30%を要する重労働であり、その軽減策が求められています 。

農研機構 野菜茶業研究所とタキイ種苗株式会社は共同で、ナス、トマト、ピーマン等のナス科野菜に単為結果性をもたらす新しい遺伝子を発見。この遺伝子に突然変異が生じることがあり、果実の成長に必要な植物ホルモンであるオーキシンが増える原因であることが明らかになりました。さらに、トマトやピーマンにも同じ働きを持つ類似の遺伝子があり、国内生産現場における生産性向上や栽培の省力化に大きく貢献することが期待されます。

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イチゴのパック詰めロボットを開発
-軟弱な果実を傷つけずにハンドリング-

イチゴの年間労働時間は約2,000時間/10aと非常に長く、選別出荷作業がその約3割を占めており、最盛期には夜なべでパック詰め作業を行わなければならないなど、重い労働負担が問題となっています。

農研機構生研センターとヤンマーグリーンシステム株式会社は、イチゴの選果施設を対象としたパック詰めロボットを開発しました。1回に最大で6個の果実を同時に扱えることにより、人が行うよりも作業時間を40%程度短縮することができます。本装置により選果施設の処理能力が拡大されることで、イチゴ生産者がパック詰め作業から完全に解放され、よりきめ細かい栽培管理や規模の拡大が可能となり産地の活性化が期待されます。

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大豆の落ちこぼれを救う遺伝子を発見
-機械収穫に対応した品種開発に弾み-

種子で繁殖する野生植物は、より広い範囲に拡大して子孫を残すため、種子を散布させるためのなんらかの機能をもっています。栽培大豆は一般に野生大豆に比べ、莢が裂開しにくい性質(難裂莢性)がありますが、栽培大豆の品種間でもその程度に大きな違いがあります。裂莢しやすい品種では、収穫の遅れによって脱粒が増し、30%もの豆を損失することが報告されています。

農研機構 北海道農業研究センター、作物研究所、北海道大学、農業生物資源研究所、香川大学は共同で、大豆の収穫ロスを抑制する遺伝子(pdh1)を明らかにしました。この遺伝子を導入すると、成熟後、乾燥してもさやがはじけにくく、畑に落ちる大豆が減ります。DNAマーカーの利用による新品種開発の効率化を通じて、大豆の安定生産への貢献に期待されます。

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市販機器で自作可能な放牧向け自動飲水供給システムを開発
-電気牧柵システムを活用して家畜管理の省力化に期待-

水田放牧や耕作放棄地放牧では、家畜の飲水確保が必須ですが、近くに水源がない場合はタンクなどに水を入れて頻繁に運搬・供給する必要があります。水源が確保できる状況であっても水源が放牧地より低い位置にある現場では、エンジン式動力などによる取水・給水が必要です。このため、家畜の飲水管理の省力・軽労化技術の開発が求められていました。

農研機構 畜産草地研究所は、電気牧柵などに使う太陽光発電装置を電源に使った放牧向けの飲水供給システムを開発。電気が通じておらず、川や用水路などの水源が放牧地より低いような場所で活用できる装置で、耕作放棄地放牧にも適しています。飲水を省力的に自動で供給可能。直流電源用のポンプなど、市販の機器を組み合わせて自作でき、導入コストの低減が期待されます。

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