社会にインパクトのあった研究成果

農業技術10大ニュース 2022年選出

メタンの産生が少ない牛に特徴的な新種の細菌を発見
- げっぷ由来メタンの排出削減に期待 -

【図】 牛の第一胃内発酵の概略図

牛などの反すう動物のげっぷには、消化管内発酵により産生する温室効果ガスであるメタンが含まれています。
農研機構は、メタン産生量の少ない乳用牛の第一胃から、牛の栄養となるプロピオン酸を多く産生し、メタン産生の抑制につながる新種の細菌の分離に成功しました。今後、本菌を生菌剤として活用することで、牛のげっぷ由来メタンの排出削減と飼料利用性の改善に貢献すると期待されます。

豚熱とアフリカ豚熱を迅速・同時に判別!
- 検査効率の大幅な向上で防疫に貢献 -

【写真】 豚熱およびアフリカ豚熱の臨床症状

豚熱とアフリカ豚熱防疫措置を確実かつ効果的に実施するには、迅速かつ実用性に優れた遺伝子検査法の開発・普及が必要です。
農研機構とタカラバイオ株式会社は、豚熱ウイルスとアフリカ豚熱ウイルスを1回の検査で迅速(2時間以内)に検出・判別可能なリアルタイムPCR法を開発しました。都道府県が実施する豚熱の迅速な診断・防疫措置や、わが国への侵入が警戒されるアフリカ豚熱の監視強化への貢献が期待されます。

土壌病害診断AIアプリを開発
- 圃場ごとの発生しやすさに応じた対策法を提示 -

【図】 HeSo+のトップ画面(左)と診断できる作物病害の種類(右)

土壌伝染性病害(土壌病害)は、難防除で多大な経済的被害を招くことが知られています。
農研機構、株式会社システム計画研究所/ISP等の土壌病害AI診断コンソーシアムは、土壌分析や栽培状況等を基に、圃場の土壌病害の発生しやすさを診断し、診断結果に応じた対策法を提示するウェブアプリ「HeSo+(ヘソプラス)」を開発しました。必要な圃場にのみ土壌消毒剤を使用することにより、消毒剤の使用量が削減され、生産者の収益性向上と環境負荷低減が期待されます。

新たな道を切り開く「みちしずく」
- 基腐病に強く、多収の焼酎・でん粉原料用かんしょ新品種を育成 -

【写真】「みちしずく」の塊根(かいこん)
「しょ(こう)」の強さが弱いため収穫時にいもを切り離しやすい

日本で最も多く栽培されているサツマイモの品種は主に焼酎の原料として使われている「コガネセンガン」ですが、サツマイモ基腐病に弱いため、茎葉(けいよう)の枯死や塊根(かいこん)の腐敗による収量低下が著しく、生産者の収益減少や焼酎メーカーへの原料供給不足が深刻な問題となっていました。
農研機構は、基腐病に強く多収の焼酎・でん粉原料用かんしょの新品種「みちしずく」を育成しました。焼酎原料用品種の「コガネセンガン」に、焼酎にした時の酒質(香りと味)が似ています。現在、種芋(たねいも)の供給は限られていますが、南九州のかんしょ産地への普及に向けて種芋を増殖中です。

ウンカ発生調査 AIで大幅時短
- 目視では1時間以上の調査時間を3~4分に短縮 -

【写真】水田で収集した調査版をAIで認識

作物害虫の発生を調査するためには、その害虫を見分けられる熟練した専門家が必要です。イネウンカ類は成虫でも5mm程度のサイズで、水田での発生量調査は、調査板の虫を1匹ずつ目視で数えています。
農研機構は、水稲の主要害虫であるイネウンカ類の発生調査にかかる時間を大幅に短縮できる技術を開発しました。人工知能(AI)を活用し、目視では1時間以上かかることもある害虫の判別・計数作業を3~4分に短縮しました。害虫の的確な防除や被害発生の予測に貢献することが期待されます。

超音波を活用したヤガ類の防除技術を確立
- 開発した装置で農薬散布回数9割減 -

【写真】ハスモンヨトウの耳(鼓膜器官)の位置

農業害虫のヤガ類は、幼虫が農作物を食害することでその商品価値を著しく低下させます。
農研機構、株式会社メムス・コア、京都府農林水産技術センターは、幅広い作物を食害する害虫のヤガ類を超音波で追い払う装置を開発し、防除技術として確立しました。天敵であるコウモリの出す超音波を聞くと、ヤガ類が逃げ出す性質を利用した技術であり、減農薬栽培の推進に貢献することが期待されます。

リンゴ黒星病の発生低減に貢献
- リンゴの落葉収集機で効率よく9割除去 -

【写真】落葉収集機の外観

リンゴ黒星病の発生を低減させるには、発生源となる前年の落葉を収集し、樹園地の外に搬出することが有効であることが知られています。しかし、リンゴの主産地である青森県では、秋に葉が落ち終わる前に積雪が始まるため、雪解け後に地面に張り付いた落葉を取除く必要があります。
農研機構、株式会社オーレック、地方独立行政法人青森県産業技術センターは、リンゴ黒星病の発生源となる落葉の収集機を開発しました。手作業の約30倍の作業能率で落葉を収集し、雪解け後の地面に張り付いた落葉に対し8~9割の除去率を達成しています。2022年3月に市販開始されています。

急傾斜45度対応のリモコン草刈機
- 強く、早く、小さい!中山間でも安全作業 -

【写真】草刈機の外観

急勾配法面における草刈作業は、刈払機を用いて人手により行われる場合が多く、法面での作業となるため姿勢が不安定で、作業中の転倒・転落事故が多く発生しています。
株式会社IHIアグリテック、農研機構、福島県農業総合センターは、リモコン操作で45度の傾斜地でも作業でき、国産の小型機種として初めてハンマーナイフ式を採用した草刈機を開発しました。茎が太く1mを超える雑草等にも対応可能で、平地、傾斜地ともに既存の小型草刈機の50%程度に作業時間を短縮しています。2022年6月に市販開始されています。